芸術大国ロシアのプライドを背負う、美しき新体操選手の実話

 公開を心待ちにしていた映画『オーバー・ザ・リミット 新体操の女王マムーンの軌跡』を観た。ロシアの新体操選手マルガリータ・マムーン(リタ)が、リオデジャネイロオリンピックにて金メダルを獲得するまでの様子を追ったドキュメンタリーだ。


 ドキュメンタリーというとカメラ1台で追うイメージがあるが、場面によっては複数のカメラで捉えられており、リタの姿がドラマチックに映し出されていた。


 芸術へのまなざしが厳しいロシア。新体操をはじめ、フィギュアスケートやアーティスティックスイミングなど芸術スポーツと呼ばれる選手の育成は、国の威信をかけて行われている。ボリショイやマリインスキーといった世界最高峰のバレエ団もあり、ロシアでバレエダンサーとして活動するには国家資格を取得しなければならないほどだ。

 そんな芸術大国ロシアのプライドを背負うリタに浴びせられるのは、耳をふさぎたくなるコーチからの罵声の数々……。このドキュンメンタリーが見せる衝撃は、美しい新体操とは裏側に、憎々しい言葉が飛び交っていることだ。

 その言葉の数々が、リタが優勝するのために必要なものであったとは思わないが、彼女が金メダルを獲得した以上、それが “正解” であったのだと結論づけられてしまう世界なのだろう。実際に、ヘッドコーチであるイリーナ・ヴィネルは、何人もの世界チャンピオンを輩出し、自身の名前を冠にした巨大な新体操センターをオープンするなど、ロシア新体操界の絶対的な存在として君臨している。

 栄光へと辿り着く話なのに物悲しさでいっぱいになるエンディング。オリンピック当時はただただ輝かしい美しさしか感じなかったが、裏側を知ってしまった今は、その美しさに憂いが帯びて見えた。

©︎ 2017 MarikoWriting.com

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